Th1/Th2について
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Th1/Th2
ThとはヘルパーT細胞のことで、産生するサイトカインの種類から、Th1とTh2のふたつに分類され、獲得免疫はTh1とTh2のバランスで成り立っています。
Th1は細菌やウイルスなどの異物に対して細胞傷害性T細胞とマクロファージの活性化を介する細胞性免疫に関与し、Th2はB細胞からの抗体産生促進を介して体液性免疫に関与します。
Th1の働きは、細胞やウイルスなどの「異物」に対して反応します。
異物を除外するために、抗体を作るように指示を出し、異物を排除していきます。またこの時、一度作った抗体は記憶しているので、同じ異物が二度と侵入してこないように抗体を保持します。これを抗原抗体反応と言います。
Th1が指令を出す際に産生されるサイトカインが、インターフェロンガンマ(IFN-γ)と呼ばれるものです。
Th2の働きは、アレルゲンに反応します。Th2が指令を出す際に産生されるサイトカインが、インターロイキン4(IL-4)と呼ばれるものです。
Th1に偏ると炎症や自己免疫反応が起きやすくなり、Th2に偏るとアレルギーが起きやすくなります。
これらのTh1/Th2はどちらかの働きが過剰にならないように、IFN-γとIL-4のサイトカインがお互いの働きを抑制しあうように働き、免疫のバランスを保っていると考えられています。
Th1細胞(細胞性免疫)は、母体が胎児を認識し、免疫系を賦活させますが、それに対しTh2細胞(液性免疫)は、胎児側が免疫からの攻撃に対応しています。
半分が精子由来である受精卵を受け入れる女性の免疫寛容が、妊娠にとって重要であり、正常妊娠では胎児・胎盤を異物とみなし攻撃するTh1細胞が減少しTh2細胞が優位になり妊娠が維持されます。
実際に反復着床不全患者と妊孕能正常の女性のTh1/Th2細胞比を比較すると反復着床不全患者が有意に高いです。NakagawaらはTh1/Th2比が高い反復着床不全患者に免疫抑制剤であるタクロリムスを併用し胚移植を施行した妊娠率が63.6%と非常に高いことを報告しています。タクロリムスはTh1細胞を優位に低下させTh1/Th2バランスを制御し受精卵に対する拒絶反応を避けることで、着床に至ると予想されます。
Th1/Th2値によるタクロリムス投与量 |
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10.3〜13.01 1錠 |
13.0〜15.8 2錠 |
15.8〜 3錠 |
参考)タクロリムスによる免疫抑制は、着床不全を繰り返し、末梢血のTh1/Th2細胞比が上昇した女性の生殖予後を改善した。
Immunosuppression with Tacrolimus Improved Reproductive Outcome of Women with Repeated Implantation Failure and Elevated Peripheral Blood Th1/Th2 Cell Ratios – Nakagawa – 2015 – American Journal of Reproductive Immunology – Wiley Online Library末梢血Th1/Th2細胞比が上昇した反復着床不全患者(n=42)に対し、25名にタクロリムスを投与し(治療群)、17名に無投与とした(対照群)。治療群は、胚移植の2日前にタクロリムスを投与し、妊娠検査当日まで継続し、合計16日間投与した。タクロリムスの1日投与量(1〜3mg)は、Th1/Th2細胞比の程度に応じて決定された。
治療群の臨床妊娠率は64.0%であり、対照群(0%)に比べて有意に高かった(P < 0.0001)。流産率は6.3%、生児率は60.0%であった(P < 0.0001)。治療群ではタクロリムスによる重大な副作用は認められなかった。また、妊娠中に産科的合併症を発症した者はいなかった。
Th1/Th2比が上昇した反復着床不全患者に対し、タクロリムスを用いた免疫抑制療法は妊娠予後を改善させた。